一人旅の記録

一人旅の様子を記録します。

2019 一人旅 in フランス。13

2019.5.4.Sat
フランス旅行5日目。(〜トラブル編〜)

最終日の夜、ライトアップされたエッフェル塔やパリの夜景を観ることができ、満足感で一杯だった。初めての海外、初めてのフランス、パリ、全てが刺激的で、最高の経験だった。旅を振り返り「いい旅だったな〜」と感傷に浸っていた。

そんな思いの中、後はホテルに帰るだけだった。
時刻は22:00過ぎ。

日没を迎え観光客が少なくなってくると、急に不安が押し寄せてきた。なんとなく治安が悪くなったような気がして、急いでタクシーを探した。しかし昼間まで、ひっきりなしに通っていたタクシーがなかなか見つからない。若干焦りつつ、ウロウロ探すこと15分。ようやくタクシー乗り場を見つけ、一台のタクシーをつかまえた。

安堵して、運転手に住所の書いたメモを見せた。
問題なくホテルへ到着した。

会計をするためクレジットカードを渡した。
すると「Non」と運転手が言う。

「Non??....てなーに?」と心の声。

どうやらこのタクシーは、カードは取り扱ってない様子。

「マジ......??」

この日は最終日ということもあり、ユーロを全て使いきってしまっていたのだ。
そして、今回の旅で他に2回タクシーでカードを使用したが、いずれも使用可能だった。その成功体験から、まさかカードが使えないなんていう考えは私の脳から排除されていた。

「嘘でしょ......?この状況、どうしたらいいんだ....?」

軽くパニックである。

とりあえず運転手にそのことを伝えた。「カードしか無い。現金はない。」

運転手は、フランス人ではなさそうだった。中東系の風貌、そして英語は話せない様子。

まず言葉の壁。まったく言語が通じない。
そして一人旅ということで、誰にも助けを求められない、という状況。

にっちもさっちもいかない状態。最善の策が分からない。
パニックに陥っているため、思考能力も低下している。

困っていると、運転手が何か言っている。
「ATM,,,,Bank,,,,,card」

所々は聞き取れて、「ATMでおろせばいい、って言ってるのかな?いや、でも銀行口座なんてないし、クレジットカードで引き出しなんてできないじゃん。。。」と思った。

これは後から知ったことだが、クレジットカードというのは、海外のATMでお金を引き出せるという便利なシステムがあるというじゃありませんか。

そして確かに、パリにはあちこちに24時間使えるATMが壁に埋め込まれているのを見かけた。

そんなことは全く知らなかった私は、ただ途方に暮れているだけだった。

ともかくATMで試してみようということになり、運転手が近くのATMへ連れて行ってくれた。半信半疑のままATMを操作し、チャレンジしてみた。
しかし、Sorry...みたいな文字が出て来て、引き出すことができなかった。

そのことを運転手に伝え、再び別のATMでチャレンジしてみたが、どこのATMでも引き出すことができなかった。

絶望の淵である。

すると運転手が「じゃあ、君のホテルへ行って、立て替えてもらおう」みたいなことを提案してくれた。私も賛成しホテルへ向かった。しかし、この経緯を伝えることは私には無理だと思ったので、運転手にホテル側へ伝えてもらうように頼んだ。

ホテルの中へ入ると、いつもの怖い夜勤の女性スタッフがいた。
運転手が、事情を説明してくれた。するとその女性がすごい剣幕で私に怒鳴り始めた。

「どうやって、払うんだ?お前のために彼は時間を費やしてるんだぞ?ATMを回ってお金を引き出して来い!」と言う。

ホテル側として対応してくれるという様子は全くない。フランスは日本のようなお客様優位の国ではない。だからなんのメリットもない仕事以外のことなんて、する訳が無いのだ。甘い考えは通用しないんだ。。。とがっくりする。

その後もATMを周り、何カ所かチャレンジしてみたが、引き出すことは出来なかった。

再びホテルへ戻り、運転手とフロントが話し合う。
そして運転手は、明日の午後取りに来るからそれまでにお金を取り返しておいて、と言って去って行った。

さて、どうする。ここからフロント女性との1対1の問答が始まった。

結論から言うと、私はパスポートをホテルに没収された。

「お金を払わないと、このパスポートは返せない。あなたは帰国することができない。」と言われた。

この女性からは、私が言葉が分からないふりをしてタクシー代を踏み倒そうとしているように見えたのかもしれない。確かに運営する側から見れば、訳の分からないアジア人を警戒するのは当然といえば当然だ。

だから私は、詐欺じゃないという誠意を見せるため、パスポートを渡した。

「そして、明日の朝7:00までに、タクシー代を払え。」というミッションを与えられた。現在23:45。

この不可能に近いミッション。
どうクリアしたら良いのだろう...?

私は一度冷静になり、ネットなどで情報を収集することが必要だと考え、一度部屋に戻って考える時間をくれ、とフロントに伝えた。
するとフロント女性から「Good Night」と皮肉たっぷりに言われた。

とぼとぼと部屋に戻る。

「なぜ....?なぜ?....なぜ、こんな目に....????」
さっきまで平和だったのに、あともう少しで帰るだけだったのに、なぜこんな状況に追い込まれているのか、訳が分からなかった。

基本的に、私の人生には大きなことは起こらない。
おもしろいできごと、悲しいできごと、びっくりすることなど人に語れるようなことは特に起こらないのが、私の人生だった。

可もなく、不可もないが、トラブルもない人生。それで良かった。
今回もそうして旅を終えられると思っていた。

だのに、なぜ?なんでこんな目に?

もう日本に帰れないかもしれない....。
距離が遠すぎて、家族に相談もできない。(時差あるし、通話料高いし...。)
相談したところで、明日の7時までに現金を用意するなんて無理じゃん....。

日本にいる夫、猫、家族、友人、同僚の顔が浮かんだ。
そして、泣いた。

冷静になって考えれば、次の日に帰れなかったとしてもいつかは帰れただろう。しかし、ホテルの延泊代、飛行機代、など余計な出費が出てしまう、と思うとなんとしても明日帰りたいと思った。

そして色々と調べた結果、フランスの日本大使館に電話することにした。「地球の歩き方」の最後の方のページに載っている、最後の手段的なやつだ。まさか、自分がこの最終手段にお世話になるとは思いも寄らなかった。でも、それしか思い浮かばなかった。

深夜0時をまわっていたが、電話してみると日本人女性の声で「はい、日本大使館です」という日本語が聞こえて来た。

このときの安堵感といったら、筆舌に尽くしがたいものがある。今まで生きてきた中で、1番安心した瞬間だったかも知れない。

涙声で、ことの事情を説明した。すると担当の方が「では、カードでホテルに支払って、ホテルに現金を立て替えてもらったらどうですか?」と言ってくれた。その案は目から鱗で、その手があったか!と思った。「じゃあ、明日相談してみます」と言って、電話を切った。私は日本語を話せたことで、少し冷静さを取り戻すことができた。

とは言っても、まだ不安はいっぱいの気持ちのまま、半泣きで荷造りをしていた。
最終日は余韻に浸り、笑顔で荷造りしたかった...。

不安のまま床についたが、熟睡できるわけもなく、夢うつつのまま朝を迎えた。
イムリミットは7:00なので、5:00に起床しATMを巡ることに決めた。

まずは昨日大使館の人に言われた、代金立て替え案を提案してみた。
しかし、ホテル側がタクシー代を支払うことは禁止されている、という理由から、あっさり断られた。

仕方なく、ATMへ向かった。
昨日調べた情報によると、カードで引き出すことができるという確かな情報と、ATMには引き出し可能なクレジットカード会社のロゴマークが記されているということが分かった。

私は、今回カードを3枚持参していた。メインのVISA1枚、予備のVISA1枚、保険でJCBを1枚。昨日のATMではVISAから引き出すことはできなかった。

朝もやの中、1台のATMを見つける。
「神様、どうかお願いします。」とこの時ばかり神頼みをし、祈るような気持ちでまずメインのVISAを試した。

「Sorry...」

カードが出て来てしまった。

「はぁ〜。やっぱりだめか....」

次、予備のVISAカードを試す。

「Sorry...」

これもまた無情にカードがでてくる。

落ち込む。

そして、ラスト1枚。保険で持って来たJCB。ヨーロッパでは、JCBはあまり使えないという前知識から、昨日は最初からJCBを試さなかった。今回の旅で1度も使用していない。

だからあんまり期待せず、ダメ元で、JCBを試してみた。

すると、今までの2枚とは明らかに違う反応。まるでスロットでもやっているような心境で、「来い!来い!来い!」と祈る。

すると「Please Wait...」という表示が。

「これはもしや、まさか?」心躍る。

すると金額を選べるステップまで進むことができた。30ユーロと入力し、しばし待つ。

すると、なんと、なんと、
ぴゃ〜っと、30ユーロ紙幣が出て来たじゃあーりませんか!!!!!

「おお!!!!ジーザス!!!!ありがとう!!!!!!!!!!!!」

奇跡が起きた。感動と安堵で、うれし泣きだ。

なぜかはよく分からないが、VISAでは引き出せず、JCBで引き出せたのだった。
思い込みというものは怖いものである。そして経験ですら、時に行動の邪魔をしてしまうことがあるということがよく分かった。
JCBは使用できないという思い込み、タクシーでカードを使えたという経験、これらの固定観念のせいで、私は失敗をした。決めつけないことの大切さを学んだのであった。

何はともあれミッションをクリアし、パスポートを返却してもらうことができた。
これで、無事に帰国できることとなったのであった。

良かった、本当に。